目次
概要
Sony FE 24-70mm F2.8 GM II、Canon RF70-200mm F2.8 L IS USM。これら定番ズームの安心感と万能性に対して、シグマ 35mm F1.2 DG IIは「画角固定×大口径」という一点突破の体験を提案する存在だ。35mmは広すぎず狭すぎない視界で、背景の文脈を残しながら主題を浮かび上がらせる。しかもF1.2の浅い被写界深度は、被写体との距離の取り方や最短撮影距離の使い方まで意識を引き上げ、光を掴むタイミングにも繊細な判断を促す。
24-70mmの自在なフレーミングは「逃げ道」を用意してくれるが、35mm単焦点は一歩動く覚悟を迫り、写真に自分の位置と意思を刻む。70-200mmが圧縮効果で背景を整理し、離れた位置から瞬間を切り取るのに対して、35mmは現場の空気を抱き込み、被写体の周囲の余白や温度まで写し取る。夜や室内での光量が限られる場面では、開放値の差が描写の自由度を大きく左右し、手持ちでのテンポを変える。ボケは量だけでなく前後の重なり方が印象を決め、質感再現やハイライトの滲み方も画の表情を左右する。
ズーム2本が「何でも撮れる」安心感を与える一方で、35mm F1.2は「何をどう撮るか」を常に問いかけてくる。それは制約ではなく、被写体との距離感と光の選択を研ぎ澄ますための導線だ。街、人物、食、旅のスナップまで、場に入り込むほどにフレームの説得力が増し、開放と絞りの使い分けで同じ場所が別の物語へと変わる。たとえば、同じカフェの窓際でも、F1.2で背景を飛ばして主題の表情だけを残すカットと、F4あたりまで絞って店内の雰囲気ごと写し込むカットでは、写真が語るストーリーがまるで変わってくる。
ある晩、細い路地のネオンがふわっと浮かぶ場所でこのレンズを使ったとき、正直「ズームを持ってきたほうが楽だったかな」と一瞬思った。しかし、一度35mmに自分の歩幅を合わせてしまうと、前後に数歩動くだけで画の密度が変わっていく感覚が癖になってくる。「ここで一歩寄るか、あえて引いて余白を残すか」——その判断がそのまま写真に刻まれ、あとから見返したときに自分の迷いまで思い出せるような、濃い体験になった。
万能と一点突破、そのどちらが自分の撮影のリズムに合うのか。シグマ 35mm F1.2 DG IIを軸に、Sony FE 24-70mm F2.8 GM II、Canon RF70-200mm F2.8 L IS USMの違いを、スペックだけでなく現場での感覚も含めて整理したのが本記事だ。次の章では、その違いが実践でどう響くのかを具体的に掘り下げていく。
比較表
| 項目 | シグマ 35mm F1.2 DG II | Sony FE 24-70mm F2.8 GM II | Canon RF70-200mm F2.8 L IS USM |
|---|---|---|---|
| 画像 | |||
| レンズタイプ | 単焦点 | ズーム | ズーム |
| 対応フォーマット | フルサイズ | フルサイズ | フルサイズ |
| 焦点距離 | 35mm | 24-70mm | 70-200mm |
| 開放絞り | F1.2 | F2.8 | F2.8 |
| 最短撮影距離 | 0.3m | 0.21m(広角)/ 0.3m(望遠) | 0.7m |
| 最大撮影倍率 | 0.2x | 0.32x | 0.23x |
| 絞り羽根枚数 | 11枚 | 11枚 | 9枚 |
| 手ブレ補正 | なし | なし | あり |
| フィルター径 | 82mm | 82mm | 77mm |
| フォーカス方式 | インナーフォーカス | インナーフォーカス | インナーフォーカス |
| ズーム方式 | 固定式 | 外装繰り出し | 外装繰り出し |
| 前玉回転 | なし | なし | なし |
| 防塵防滴 | 対応 | 対応 | 対応 |
| 絞りリング | あり | なし | なし |
| コントロールリング | あり | あり | あり |
| AF駆動 | リニアモーター | リニアモーター | ナノUSM |
| 内蔵手ブレ補正連携 | ボディ側IBISと連携 | ボディ側IBISと連携 | IS+ボディ側IBIS協調 |
| フード付属 | 付属 | 付属 | 付属 |
| 三脚座 | なし | なし | あり(着脱式) |
| テレコン対応 | 非対応 | 非対応 | 対応 |
| レンズ構成(群/枚) | 17/12 | 20/15 | 23/19 |
| 特殊レンズ採用 | 非球面/SLD採用 | 非球面/ED採用 | 非球面/UD採用 |
| コーティング | 撥水防汚/多層コート | ナノAR II/フッ素 | ASC/フッ素 |
| 全長 | 約136mm | 約120mm | 約146mm |
| 最大径 | 約88mm | 約88mm | 約89mm |
| 質量 | 約1090g | 約695g | 約1070g |
比較詳細
シグマ 35mm F1.2 DG IIを手にした瞬間、まず感じるのは開放値の圧倒的な余裕だ。F1.2という明るさは、室内や夜景でも迷いなくシャッターを切れる安心感を与えてくれる。背景が大きく溶けるように消えていく描写は被写体を際立たせる力が強く、ポートレートでは人物の存在感が一段と増す。これに対してSony FE 24-70mm F2.8 GM IIはズームの利便性が光り、焦点距離を自在に変えられる柔軟さが魅力だが、開放値の違いから背景の分離感はやや穏やかで、場面全体を自然にまとめる方向に働く。Canon RF70-200mm F2.8 L IS USMは望遠域での圧縮効果が顕著で、遠景を引き寄せるような迫力を生み出す一方、広角的な空気感や被写体との距離感を詰める体験はシグマの単焦点ならではのものになる。
実際に夜の街を歩きながらシグマの35mmを使ってみると、開放でのボケが非常に滑らかで、光源が柔らかく滲むような表現が可能だ。街灯やイルミネーションを背景にしたポートレートでは、幻想的な雰囲気が自然に生まれ、撮影者自身もその場の空気に包まれるような没入感を覚える。シャッタースピードが1/40秒前後まで落ちても、35mmという画角とボディ側の手ブレ補正の組み合わせなら意外と踏ん張れて、「このくらいならいけるだろう」と攻めた設定を試したくなる。
Sonyのズームは解像感が高く、細部までシャープに描き出す力があり、商品撮影や風景では全体をくっきりと見せたい場面に適している。実務的な撮影で、構図を組み直す時間がそれほど取れない現場では、ズームリングを回すだけで対応できるのはやはり心強い。ただし、被写体を強調するよりも全体のバランスを整える方向に働くため、主観的には「場面を記録する」印象が強くなりやすい。Canonの望遠は手ブレ補正が効いていることもあり、遠距離からでも安心して狙える点が大きな利点で、スポーツや動物撮影ではその安定感が心強い。連写で追いかけているときの歩留まりも良好だが、近距離での親密な空気感は得にくいと感じた。
シグマのレンズを使うと、撮影者自身が被写体に寄り添う感覚が強まり、距離を縮めることで生まれるコミュニケーションが写真に反映される。たとえば、友人を撮ったときも、少し踏み込んで会話しながら撮ることになるので、表情の変化がそのまま写りやすい。開放で撮ると背景が大きく溶けるため、撮影対象が浮かび上がるように見え、「この瞬間を切り取りたい」という気持ちが自然に高まる。一方で、Sonyのズームは万能さが魅力で、旅行やイベントでは一本で幅広く対応できる安心感がある。描写のキャラクターはシグマほど強烈ではなく、撮影者の感情を直接的に反映するよりも、場面全体を整理して見せる方向に働く印象だ。
Canonの望遠は圧縮効果によって背景が迫り、被写体が舞台の上に立っているような存在感を与える。ステージ撮影や屋外のスポーツでは、距離を保ちながらも「そこにいる」感覚をしっかり伝えてくれる。ただ、撮影者としてはどうしても距離を置いて観察している感覚が強くなり、被写体との一体感はシグマの方が濃厚に感じられた。街歩きのスナップで持ち出すと、望遠域に寄りすぎてしまい、「もう少し周囲の空気も入れたい」と感じる場面が多かったのも事実だ。
光の扱い方にも違いがある。シグマは開放で撮ると柔らかいグラデーションが自然に広がり、逆光でもドラマチックな雰囲気を作りやすい。夕暮れ時の逆光ポートレートで、髪の毛の縁だけがふわっと光るようなシーンでは、F1.2ならではのトロッとしたボケと相まって、肉眼よりも少し理想化された世界が立ち上がる。Sonyはコントラストが高く、光と影をしっかり分けるため、構図を整理して見せたいときに有効だ。シャドウを潰さずにハイライトも粘るので、編集耐性という意味では非常に扱いやすい。
Canonは望遠ならではの圧縮効果で光の層を重ねるように描写し、遠景の霞や空気感を強調する場面で印象的な結果を得られる。夕方のグラウンドで走る選手を追いかけたとき、背景の観客席や照明がぎゅっと詰まって、一枚の中に「その場の空気」を圧縮したような画になったのが印象的だった。体感としては、シグマは「光を包み込む」、Sonyは「光を切り取る」、Canonは「光を重ねる」といった違いがあり、撮影者の感覚に直結する部分で差が出る。
操作感についても触れておきたい。シグマの単焦点は重量感がありながらも、しっかりしたグリップとバランスのおかげで、構えたときの安定感が心地よい。長時間のスナップではさすがに腕にくるが、その重さが「本気の一本を持っている」という感覚につながり、撮影に集中できる安心感がある。Sonyのズームは軽快で、焦点距離を変える操作が直感的にできるため、場面に応じて素早く対応できる柔軟さが魅力だ。旅先で荷物を減らしたいとき、「とりあえずこれ一本」という選択肢になりやすい。
Canonの望遠は大きさを感じるものの、ホールや屋外スタジアムなど広い場所ではむしろその存在感が頼もしい。しっかりとしたホールド感があり、撮影者を支える道具としての信頼性が高い。実際に使ってみると、シグマは「作品を作る」意識が強まり、Sonyは「場面を記録する」意識が自然に芽生え、Canonは「迫力を伝える」方向に気持ちが向かうと感じた。
日常的なスナップに限定して考えると、シグマ 35mm F1.2 DG IIは、歩きながらふと目に留まった光景に対して「立ち止まって、数歩動いて、腰を落ち着けて撮る」というリズムを自然と作ってくれるレンズだ。ズームのようにリングを回して済ませるのではなく、自分の身体を動かしてフレーミングを決めることで、そのときの迷いや決断が1枚1枚に記録されていく感じがある。「今日はちゃんと写真を撮りたいな」という日の相棒として、かなり濃い時間を過ごせる一本だと感じた。
まとめ
最も心を掴まれたのはシグマ 35mm F1.2 DG IIだ。開放の立体感とボケの気品が、夜の街でも被写体の輪郭を柔らかく抱き込み、撮る前に感じていた「ここで止めたい」という衝動をそのまま絵にしてくれる。ピント面は芯が強く、にじみすぎない階調が手に伝わる。フレアの出方もコントロールしやすく、光源を入れたときのドラマが破綻しない。歩幅を小さく、被写体に寄るほど楽しくなる単焦点らしさが、作品づくりのテンポを整えてくれた。
次点はSony FE 24-70mm F2.8 GM II。ズーム域全域でコントラストの高さと色の抜けが均質で、実務での成功率が高い。切り取りたい瞬間に迷わず焦点距離を合わせられ、周辺まで素直な描写が続く。機動力が創作の失敗を減らす安心感は圧倒的で、一本で何でもこなしたい現場では最有力といっていい。最後はCanon RF70-200mm F2.8 L IS USM。圧縮効果と背景処理の品位が魅力で、距離のある被写体に一歩踏み込んだ表現ができる。手ブレ補正の効き方も自然で、縦構図のスナップでも歩留まりが良い。
ただ、私の街歩きでは望遠域に寄りすぎる場面が多く、日常的な「寄る喜び」はやや薄いと感じた。総評として、作品作りの熱を高めてくれるのはシグマ、現場での成功率と柔軟性はソニー、圧縮の美学で絵の空気を変えるのはキヤノン。ベストチョイスはシグマ 35mm F1.2 DG IIだ。被写体との距離感を自分の歩幅で決められ、光の機嫌を活かす自由度が最も高かった。一本で写真への向き合い方を変えてくれるレンズを探しているなら、この35mm F1.2はそのきっかけになるはずだ。
引用
https://www.sigma-global.com/
https://www.sony.com/electronics/camera-lenses/sel2470gm2
https://www.canon-europe.com/lenses/rf-70-200mm-f2-8l-is-usm/
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