露出計すら持たないライカ M-A Typ 127、クラシックかつ実用的なライカ M6、そして万能バランス型のライカ MP 0.72。どれも「フィルムで撮る歓び」を味わうための名機ですが、実際に持ち出して撮ると撮影テンポや緊張感、写真への向き合い方がまったく違ってきます。ここではM-Aを軸に、M6・MP 0.72と実際の使用感を交えながら比較していきます。
目次
比較概要
ライカ M6、ライカ MP 0.72。フィルムで撮る歓びを大切にする人に向け、ライカ M-A Typ 127は「何も足さない」設計思想で選択肢を明確にします。露出計非搭載の完全機械式で、バッテリー残量や指標に気を取られない分、被写体との距離に意識を集中できるのがM-Aの核となる体験です。対してM6はクラシックなレンジファインダーの感触を保ちながら、ファインダー内で露出を確認できる安心感があり、光を読む練習をしつつもテンポを崩しにくいのが魅力。MP 0.72は堅牢な作りと落ち着いた操作感に加え、0.72の視野率が汎用的なレンズ選択を後押しします。
ここで問われるのは機能差そのものより、自分がどの瞬間に心を掴まれたいかという撮影哲学。M-Aは「現場で自分を信じる」体験を引き出し、M6は「光の指針を味方にする」安心感、MP 0.72は「道具としての一体感」を高い次元で整えます。どれもフィルムを通して時間を定着させるための道具ですが、シャッターを切る前の呼吸や、構えたときの視界の静けさはそれぞれで異なるもの。自分の撮りたいリズムと向き合うほど、三者の性格がくっきりと見えてきます。M-Aを軸に比較することで、機能の有無ではなく「撮影の集中をどこに置くか」を見極めやすくなるはずです。テンポで選ぶのか、安心で選ぶのか、それとも静けさで選ぶのか。次の一枚に向けて、あなたの撮影の重心を言葉にしてみましょう。
比較表
| 機種名 | ライカ M-A Typ 127 | ライカ M6 0.72 | ライカ MP 0.72 |
|---|---|---|---|
| 画像 | |||
| レンズマウント | ライカMマウント | ライカMマウント | ライカMマウント |
| フィルムフォーマット | 35mm判 | 35mm判 | 35mm判 |
| 露出モード | 完全マニュアル | マニュアル+内蔵露出計表示 | マニュアル+内蔵露出計表示 |
| 露出計 | 非搭載 | TTL露出計(LED表示) | TTL露出計(LED表示) |
| 電源 | 不要 | 露出計用ボタン電池 | 露出計用ボタン電池 |
| シャッター方式 | 機械式フォーカルプレーン(布幕) | 機械式フォーカルプレーン(布幕) | 機械式フォーカルプレーン(布幕) |
| シャッタースピード範囲 | B〜1秒〜1/1000秒 | B〜1秒〜1/1000秒 | B〜1秒〜1/1000秒 |
| フラッシュ同調速度 | 1/50秒 | 1/50秒 | 1/50秒 |
| ビューファインダー倍率 | 0.72倍 | 0.72倍 | 0.72倍 |
| フレームライン | 28/90, 35/135, 50/75 | 28/90, 35/135, 50/75 | 28/90, 35/135, 50/75 |
| レンジファインダー基線長 | 有効基線長約49.9mm | 有効基線長約49.9mm | 有効基線長約49.9mm |
| ISO設定 | フィルム感度表示ダイヤル(露出計なし) | ISOダイヤルによる露出計感度設定 | ISOダイヤルによる露出計感度設定 |
| フィルム装填方式 | 底蓋開閉、手動装填 | 底蓋開閉、手動装填 | 底蓋開閉、手動装填 |
| フィルム巻き上げ | 手動レバー式 | 手動レバー式 | 手動レバー式 |
| フィルム巻き戻し | 手動クランク式 | 手動クランク式 | 手動クランク式 |
| フレームカウンター | 機械式、手動リセット | 機械式、底蓋開閉時リセット | 機械式、底蓋開閉時リセット |
| ホットシュー | あり | あり | あり |
| PCシンク端子 | あり | あり | あり |
| トッププレート素材 | 真鍮 | 亜鉛合金 | 真鍮 |
| 外装仕上げ | シルバークローム/ブラッククローム | シルバークローム/ブラッククローム | シルバークローム/ブラックペイント |
| 製造国 | ドイツ | ドイツ | ドイツ |
| 発売年 | 2014年 | 1984年 | 2003年 |
| 寸法 | 約138×77×38mm | 約138×77×38mm | 約138×77×38mm |
| 重量 | 約574g | 約560g | 約585g |
比較詳細
露出計の有無と撮影テンポの違い
ライカ M-A Typ 127を手にした瞬間、まず感じるのは徹底した機械式の潔さです。露出計すら搭載されていない完全なマニュアル操作は、撮影者に全てを委ねるスタイルであり、フィルムカメラ本来の緊張感を呼び覚まします。これに対してM6は露出計を備えているため、光の状況を即座に把握できる安心感があります。実際に屋外で光が刻々と変化する場面では、M6の利便性が撮影をスムーズにしてくれる一方で、M-Aでは自分の感覚を頼りに露出を決めるため、撮影行為そのものが研ぎ澄まされるような体験になります。どちらが優れているかではなく、撮影者が求める緊張感や没入度によって体感は大きく変わるのです。
夕暮れの街でスナップをしていると、その違いは特に分かりやすく現れます。M6ではファインダー内のLEDを横目で確認しながらテンポよく切っていけるので、思わずシャッター数が増えていきます。一方M-Aでは、次の一枚を切る前に「この光ならシャドウはどこまで残るか」「ハイライトは飛ばしていいか」と、ワンカットごとに一拍置いて考えるようになる。正直、枚数はそこまで稼げませんが、一枚ごとの記憶の濃度はぐっと上がります。
MP 0.72がもたらすバランス感覚
MP 0.72と比較すると、M-A Typ 127はより純粋な撮影体験を提供します。MPはクラシカルな外観を持ちながらも露出計を搭載しており、伝統と現代的な利便性を融合させたモデルです。実際にMPを使うと、クラシックな質感を味わいながらも露出の不安を軽減できるため、安心して撮影に集中できます。しかしM-Aではその補助が一切ないため、フィルムの一枚一枚に対する集中力が高まり、撮影後の結果を待つ時間すら特別なものに感じられます。自分の判断がそのまま写真に反映される感覚は、他のモデルでは得難い体験です。
自分の場合、人物撮影でMPを使うときは、被写体との会話に意識を置きつつ、露出は露出計に任せるという役割分担ができます。M-Aで同じシーンに臨むと、どうしても光と被写体の両方を同時に細かく見ることになり、良くも悪くも“修行モード”に入る感じです。集中して撮りたい作品作りにはM-A、確実に結果を残したい撮影にはMPという住み分けが自然にできてきました。
ファインダーの見えと「視界の静けさ」
ファインダーの見え方にも違いがあります。M-A Typ 127はクリアで歪みの少ない視界を提供し、構図を決める際に余計な情報が入らないため、被写体に集中できます。M6やMPでは露出計の表示が視界に入ることで、撮影の安心感は増すものの、純粋に被写体だけを見つめる感覚はやや薄れます。実際にポートレート撮影を行うと、M-Aでは被写体との対話に没頭でき、撮影者自身の感覚が研ぎ澄まされるように感じます。逆にM6やMPでは、撮影の効率性や確実性が優先されるため、安心してシャッターを切れるという心理的な余裕が生まれます。
夜の路地でM-Aを構えると、ファインダーの中は本当にシンプルで、枠線と被写体だけの世界になります。露出計表示がないので、「いまどのくらい暗いのか」を自分の目と経験で測るしかありません。M6やMPでは、同じシーンでもLEDの矢印が露出の“答え合わせ”をしてくれるので、失敗を恐れずに撮っていける感覚が強いです。この「視界の静けさ」を尊ぶか、「情報の安心感」を取るかが、三機種を選ぶ上での大きな分かれ目になります。
操作感と巻き上げフィールの違い
操作感の違いも印象的です。M-A Typ 127は巻き上げレバーやシャッターダイヤルの感触が非常に滑らかで、機械式ならではの精密さを指先で感じ取ることができます。M6やMPも同様に高い精度を誇りますが、露出計の存在によって操作の流れがやや現代的に感じられます。M-Aでは一つ一つの操作が撮影行為そのものを強調し、フィルムを扱う喜びを再認識させてくれます。実際に長時間撮影を続けると、M-Aの操作は疲れを感じさせないほど自然で、撮影者とカメラが一体化するような感覚を覚えます。
個人的には、MP 0.72の巻き上げフィールが三機種の中で最も「完成度が高い」と感じています。適度な抵抗感とスムーズさのバランスが絶妙で、シャッター音の余韻と合わせて、一本撮り切るころにはちょっとした儀式を終えたような満足感があります。M-Aはそれよりもわずかに素朴で、良い意味で“道具っぽさ”が残っている印象。M6は実用的で扱いやすく、毎日の相棒としては一番ラクです。「儀式性を楽しみたいか」「とにかくたくさん撮りたいか」で、どの操作感がしっくりくるかは変わってくると思います。
携行性と撮影シーン別の使い分け
撮影後の体験も異なります。M6やMPでは露出計の助けによって失敗の少ない結果が得られるため、安心してフィルムを現像に出せます。しかしM-Aでは自分の判断がそのまま結果に直結するため、現像後に写真を確認する瞬間の緊張感と高揚感が格別です。成功したカットは自分の感覚が正しかった証明となり、失敗したカットもまた学びの材料となります。このプロセス自体が撮影者を成長させる体験であり、単なる道具以上の存在としてM-Aを特別なものにしています。
持ち歩いた際の印象も比較すると面白いです。M-A Typ 127は露出計を持たない分、内部構造がシンプルで軽快に感じられます。M6やMPはわずかに重量感がありますが、その分安心感や堅牢さを感じさせます。街中でスナップを撮るとき、M-Aは直感的にシャッターを切る楽しさを強調し、MPやM6は確実性を伴った撮影を可能にします。旅行先で一台だけ選ぶとしたら、正直かなり迷いますが、「撮影枚数を稼ぎたい旅」ならM6、「じっくり作品を狙いたい旅」ならM-Aという選び方をよくします。仕事寄りの撮影や失敗を避けたい現場ではMP 0.72のバランスが頼もしい存在です。
デザインと所有する歓び
デザイン面では三者ともライカらしい美しさを備えていますが、M-A Typ 127は特に無駄を削ぎ落とした純粋な造形が際立ちます。M6は実用性を重視したバランスの良さがあり、MPはクラシックな雰囲気を現代に蘇らせたような存在感があります。実際に手に取ると、M-Aは撮影者を挑戦へと誘うような緊張感を放ち、M6やMPは安心して長く付き合える相棒のような印象を与えます。
自宅の棚に三台並べて置いておくと、つい手を伸ばしたくなる順番にも性格が出ます。今日はゆっくり街を歩きたいな、という日はM-Aに手が伸びますし、「絶対に外したくない一日」は迷わずMP 0.72を選びます。M6は、フィルムの本数を決めずにとりあえずバッグに放り込んでおきたい日のお守りのような存在。所有する歓びと実用性のバランスをどこに置くかで、ベストな一本は変わってきます。
総じて、M-A Typ 127は撮影者に「写真を撮る」という行為そのものを強烈に意識させるカメラです。M6やMPは利便性や安心感を提供しつつも、クラシックな魅力を失わないバランス型ですが、M-Aはあえて不便さを残すことで撮影者の感覚を研ぎ澄まし、写真を生み出す喜びをより深く味わわせてくれます。実際に使い比べると、体感できる差は明確であり、どのモデルを選ぶかは撮影者が求める体験の質によって決まります。挑戦を楽しみたいならM-A、安心して撮影を続けたいならM6やMPという選択肢が自然に浮かび上がります。フィルムカメラの魅力を最大限に引き出すために、M-A Typ 127は特別な存在であり、手にした瞬間から撮影者を新たな世界へと導いてくれるのです。
まとめ
まず心を射抜かれたのはライカ MP 0.72。露出計を内蔵しながらもピュアな機械式のフィールが損なわれず、指先で巻き上げる抵抗感やシャッターの余韻が「撮る理由」を毎回思い出させてくれる。0.72の見えは現代のレンズ選択とも相性が良く、現場で迷いを減らす。次点はライカ M-A Typ 127。電池非依存の潔さは、撮影に伴う判断を自分の眼と経験へまっすぐ戻してくれる。測光がないからこそ、光を読む行為に集中でき、フィルムを通した像が頭の中で立ち上がる。巻き上げの質感はMPと甲乙つけがたいが、実務では外部メーター前提になる。
一方、ライカ M6は復刻に伴う信頼性と露出計の安心感があり、街撮りでのテンポの良さは突出している。レンジファインダーの基礎体験を崩さずに歩留まりを高められるのが美点。ただ、ファインダーの見えや操作のコクはMPやM-Aの「研ぎ澄まされた機械感」に一歩譲る場面もあった。総評として、作品づくりの軸をぶらさず、機材が判断を後押ししてくれる万能さでMP 0.72が最も充実した選択。光と向き合う儀式性を愛するならM-A Typ 127、日々の撮影量を稼ぎたいならM6が最適。ベストチョイスはライカ MP 0.72。私はこの機で測光の迷いを最小化しつつ、レンジファインダーの手触りと緊張感を最後の一押しにできた。
引用
https://leica-camera.com/ja-JP/photography/cameras/m/m-a-typ-127-silver
https://leica-camera.com/ja-JP/photography/cameras/m/m6
https://leica-camera.com/ja-JP/photography/cameras/m/mp
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